BEYOND THE IDOL

 第七章 ◆アニメとゲームとアイドルと ~番外編~



 前章でアイドルとアニメに関する話題に触れましたが、今回は強引にそこだけにフォーカスした話題をお送りします。
 結論を先に言ってしまえば、アイドルとアニメ、あるいはゲームという土壌は、最初は融合していくとは思えないものでしたが、徐々に親和性を高め、果てはアニメ界・ゲーム界のアイドルを創出していく、また市場がクロスすることによって互いの影響化に収束されていく……という流れ。こうした文脈を念頭に置きつつ、その歴史を振り返ってみましょう。
 個人的な記憶の限界なんですが、自分が一番最初にアイドルがアニメの主題歌を歌ったという印象を持っているのが井上望の「おはようスパンク」です。当然、それ以前にもアニメ主題歌を歌ったアイドルは存在するはずです。しかし私は、なぜかこのアニメの原作漫画が好きだったので、第1話から見始めたんですが、主題歌が流れて井上望と分かった時の衝撃は相当なものでした。
 というか、アニメの主題歌って専門の歌手が歌うものという印象が強かったわけですね。それこそ当初は佐々木功や水木一郎、堀江美智子に大杉久美子、あとは子門真人やこおろぎ'73とかですかね。それが80年代近くなると、どんどん知らない人が登場してきた時期でもありました。そんな中で聞こえてきた美声と勝手知ったるアイドルの登場には相当驚いたものでした。
 さて、この「おはようスパンク」は'80年の作品ですが、ここから数年は、特にアイドルがアニメ主題歌を歌う傾向が顕著に現われることもありません。強いて言えば、伊藤さやかが「さすがの猿飛」の主題歌を歌ったくらいでしょうか。曲名は「恋の呪文はスキトキメキトキス」。この変わったタイトルとして記憶している人もいるでしょう。あとは「魔法の天使 クリィミーマミ」の主題歌を太田貴子が歌ってました。……と、その一言でスルーして良い話題じゃないんですが、とにかく'80年代前半はそれほど多くのアイドルがアニメ主題歌を歌っていた訳じゃない、ということです。
 あとは同時期の作品として「超時空要塞マクロス」のリン・ミンメイ=飯島真理をどう捉えるか、という問題もありますが、やはりエポックな話題として「風の谷のナウシカ」を歌った安田成美を取り上げないわけにはいかないでしょう。
 この「安田成美&風の谷のナウシカ」の凄さは、デビュー曲かつ話題作である大抜擢感。そして、劇中で使われないけどテーマソングであるという微妙な位置づけ。更にテレビで歌っても、歌いこなれていない歌唱力に、見ているこちらが居心地の悪さを感じたりしたものです。
 とにかく「アニメの歌をアイドルに歌わせちゃいました」という手法は話題性がある、と誰もが認知するに十分な出来事だったことは確かですね。その顕著な例が、映画「ルパン三世 バビロンの黄金伝説」のテーマを歌った河合奈保子でしょうか。そうした例がありつつも、恣意的に「アイドルの起用」を前面に打ち出していくことはそれほど多くなく、気がついたらアイドルが歌ってた……ということが中心でした。
 この時期の他の代表作といえば、デビューがアニメ主題歌というパターンの藤原理恵。後のC.C.ガールズのメンバーとしてのほうが有名かもしれませんが、「超獣機神ダンクーガ」の主題歌をいかにもアイドルらしいたどたどしさで歌っていました。また、歌唱力に定評のあるアイドル、あるいはバラドル……という両側面を持ちつつも、アニメ主題歌もそこそこ手がけている森口博子。彼女の「水の星へ愛をこめて」は、ご存知「機動戦士Zガンダム」の後期主題歌ですね。
 そして、この時期最大のヒットと言えば、岩崎良美の「タッチ」でしょう。アニメ主題歌の枠を超え、一般的なヒット曲としての定評もある同曲の存在により、ひとつのアニメでいくつもの主題歌や挿入歌が生み出されていきます。
 その後は、斉藤由貴が「めぞん一刻」の主題歌として「悲しみよこんにちは」を歌い、うしろゆびさされ組が「ハイスクール!奇面組」の各種テーマを独占していました。さらに時代を進めると酒井法子の「夢冒険」が「アニメ三銃士」の主題歌で、少女隊が「ドミニオン」の主題歌を、山瀬まみが「ドラグナー」のエンディングを歌っていましたね。
 山瀬まみといえば、アニメ映画「スーパーマリオブラザーズ ビーチ姫救出大作戦」のピーチ姫役として登場。今章のテーマであるゲームとアニメとアイドルをすべて体言している感じですね。
 この頃のゲーム業界に話をシフトさせると、石野陽子が「テディ・ボーイ・ブルース」でデビュー。同名ゲームのVGMとしても起用されていることは言うまでもないでしょう。また清水香織がファミコンソフト『アテナ』に同梱されていた『サイコソルジャー』のサントラで歌を歌っていた……なんてこともありましたね。あと、アイドルの商品化という意味では『中山美穂のトキメキハイスクール』、立花理佐の『リサの妖精伝説』というファミコン・ディスクシステムのゲームも話題になりました。
 対するPCエンジンもマニアックな路線を走ります。CD-ROM2の第1弾として出たのが小川範子の「No・Ri・Ko」。その後、酒井法子の「鏡の国のレジェンド」をリリース。このあたりはCD-ROM特有のサンプリングの力で実写映像を取り込むなど、ファンアイテムという要素も持ち合わせていました。また声のみの出演だと、西村知美の「迷宮のエルフィーネ」なんてのもありましたね。
 そして、それらの極め付きが「みつばち学園」! ここまでの成り行きで「当然出てくるだろう」と思った人も多いでしょう。このゲームは、なんとアイドル育成オーディションゲーム(!!)。どこかで聞いた事があるようなジャンルですね。まぁ、我らが『アイドルマスター』はプレイヤーがプロデューサーなのに対して、こちらは審査員という点が違いますが、アイドルファンを震撼させたゲームソフトであることは間違いありません。その理由として、同ゲームは実際の芸能関係でのタイアップしており、このゲームから井上麻美という娘をデビューさせたりしていたからです。
 さて、そうしたゲーム業界でもアイドルが注目を集める中、'80年代末期にはアイドルとアニメの融合とも言える「アイドル伝説えり子」により、田村英里子が登場。デビューとアニメ番組のタイアップのようなスタイルは、「安田成美&ナウシカ」よりも強固でしたが、同時にアニメ「えり子」とアイドルの「英里子」がお互いに縛りつけ合ってしまう不利な展開を危惧したものです。この後継番組が、田中陽子を擁した「アイドル天使ようこそようこ」ですね。
 そうこうしているうちに'90年代に突入するのですが、細分化されているアイドルの中で、スタンダードかつクオリティの高いビジュアルを持った高橋由美子がデビュー。本来であれば、前章の'90年代アイドルとして普通に取り上げても良い彼女でしたが、個人的な楽曲の印象が「ワタル2」や「リューナイト」、あるいはドラマなどの主題歌であり、そういう方面で確実な人気を確保していたので、辛くもこの章で取り上げさせていただきました。
 こうした'80年代から'90年代にかけてアニメシーンからは声優のアイドルが登場してきます。アイドルとはいえ、従来のそれとは違いあくまで業界内限定……というノリだと思われましたが、その人気は決してあなどれるものではありません。ライブの動員やCDなどのセールスは、歌を本業とする駆け出しのアイドルを遥かに凌駕するものであり、現在まで続く「アイドルシーン」の位置づけにおいて、この声優の存在は切り離す事ができない立場を築いていると言って良いでしょう。
 なにせ声優のコンサートともなれば、かつてのアイドルコンサート顔負けのノリ……いやそれ以上の熱気と盛り上がりで、アイドルファンなら一度は必見かもしれない様相だったりします。
 そうしたアイドル声優の先駆けが、林原めぐみや横山智佐。当然、歌が歌えることはマストですが、声を商売としている彼女らの歌唱力には定評があります。その後は、よりアーティスティックに歌を追求した國府田マリ子や椎名へきる。金月真美や丹下桜も相当な人気がありましたね。そのあたりでムーブメントが確固たるものになると、爆発的にアイドル声優が生み出されていきます。その人気や盛り上がりっぷりは、皆さんのほうがご存知かもしれません。
 さて、'90年代のゲームシーンにおけるアイドルの話題は、PCゲーム『イース』のミス・リリア・コンテストで選ばれた杉本理恵。彼女は特にこうしたPCゲームシーンにて破格の扱いでアイドルしていたわけですが、アイドルという商法が難しくなっていたこの時代の立ち回りとしては最良だったのかもしれません。
 '90年代中盤にもなるとゲーム機プレイステーションが登場。初期のタイトル『クライム・クラッカーズ』の主題歌を東京パフォーマンスドールの穴井夕子が歌い、同グループの篠原涼子がアニメ映画「ストリートファイターII MOVIE」の主題歌「恋しさとせつなさと心強さと」を大ヒットさせます。同じ対戦格闘ゲームのヒット作「バーチャファイター」のTVアニメのエンディングをビビアン・スーが歌うなど、ゲーム・アニメ・アイドルの融合が散見されるようになります。
 とはいえ、もうこの時代になればアニメとゲームの市場がユーザーとしてクロスしていることからのミクスチャは当然であり、長い経緯を見ればそこにアイドルが関与することは必然でもありました。
 というわけで、何か大事な事を書き忘れた気もしますが、ひとまずアイドルシーンにおける「アニメとゲーム」を切り口としたテーマ別の話題をお送りしてみました。
 次回こそ、たぶん'90年代後半から現在までに続く、アイドルの再復権の話題だと思います。

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